僕が『巖』を好きな理由

よく、「どの日本酒が一番好きですか?」という質問をされます。
正直なかなか答えにくいです。
というのも、気分や場所など、環境や、そのときの感情によっても変わるからです。
でも、「『巖(いわお)』です」と答えてしまってもいいかな、と思い始めています。

『巖』との出合い

巖は、群馬県藤岡市にある、高井株式会社が醸す代表的な銘柄。
「巖」の名前の由来は、大山巖元師から取ったものです。

僕が巖を初めて飲んだ場所は、東京の名酒センターでした。
このお店に行かれたことがある人はご存知だと思いますが、ズラーっと120種類以上の日本酒が常に揃っています。

その中から最初に目が付いて、真っ先に手に取ったのが、『巖 純米吟醸』でした。
……選んだ理由は、名前です。
「巖」という名前は、実は僕の祖父の名前と同じなんですね。
祖父と同じ名前のお酒だから、絶対に好みの味であることを祈って、自分の中でだいぶとハードルを上げて飲んだのですが、悠々と越えてきましたね。めちゃくちゃおいしかった!

祖父のことを思って書いた、デビュー2作目の記事は、こちらから→『酒と泪と祖父と僕、時々、オトン』

日本酒を飲めるようになって

僕は大学を卒業して数年間は、下手なお酒の飲み方ばかりをしていて、「お酒=酔っぱらい=下衆」のように思っていました。

祖父が毎日、晩酌をする姿を見て育ちましたが、日本酒はマズいものだと思っていたので、お年寄りは味覚がバカになっているのだと、自分を正当化するのに必死でした。
初めて日本酒をおいしいと感じたのは、24歳の誕生日に、友だちのシュンくんから貰った日本酒です。
いままで飲んでいた日本酒との違いを感じ、そのときから自分と違うものを否定することをやめ、自分の無知を認め、恥じました。

おじいちゃん、ごめん。

これで、「おじいちゃんと乾杯するのが夢になりました」と言えば、良い話になるのですが、現実はそこまで飛躍することはなく、普段飲むお酒のレパートリーに日本酒が追加された、くらいのものでした。

キッカケは、いつもおじいちゃん

祖父から教わったことは数え切れませんが、小学生のときに教わったことで、いまだに印象に残っていることがあります。

夏休みの期間は毎日、絵日記の宿題が出されていて、いつも、「今日は、○○へ行って、□□くんと遊びました。」といった、小学生に有りがちな日記を書いていました。

ある日、朝から昼過ぎまで雨が降っていて、家の中でゴロゴロとしていた日のこと。
なにも特別なことがなく、日記に書く出来ごとがありません。

祖父に助けを求めました。

すると祖父は玄関を開け、外に出て、「ちょっとおいで」と僕を手招きしました。
僕は不審に思いながらも、祖父に続きます。

玄関先に咲いた花を指さして、
「朝から雨降ってたから、花びらに水滴が付いてるやろ?」
「うん」
「『太陽が水滴に反射して、花が光って見えます。美しく感じました。』……これでええんやで」
なにもないと思っていた日は、ほんとはなにかある。
当たり前に感じているだけで、毎日が特別で、大切な一日なのだと教えてくれました。

僕が言葉を大切しようと思ったキッカケです。

巖に感じること

僕は祖父から「優しさ」を学びました。
優しさだけじゃ生きていけないことも知っていますが、それでも優しさを信じています。

日本酒の「巖」を飲むと、祖父と名前が一緒ということもあってか、なぜかいつも優しさを感じるんです。

――先日、行きつけの酒屋さんで、素敵なラベルの日本酒を見つけました。
よく見ると、『巖 特別純米酒R ~まごころを 君に~』でした。
「巖」で、しかもラベルが素敵なので、その時点で購入することを決めたのですが、驚いたのは、ボトルの裏面を見たときです。
高井専務の言葉が記されていたのですが、僕が祖父に抱く思いと似ていたのです。
本作品のテーマは”優しさ”そして”穏やかさ”です。
自分たちの中にあるものがにじみでて、飲んでいただいた方を包み込むようなものを心がけました。
精一杯のまごころを 君へ。
家に帰ると、お猪口にお酒を注ぎ、祖父の仏壇に供えました。
穏やかな気持ちで手を合わせます。

「今日も、おいしい日本酒を飲めるのは、おじいちゃんのおかげやで。ありがとう」



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